「赤の9番【隷従】」

「あなたは私の奴隷でしょう!?
「はい、その通りです!」
「私に従うことはあなたにとってどうなの!?」
「喜びです!」


あらすじ

冴えない男子高校生・木下つくしはネットを徘徊中にクラスメイトの小田かずさが書いたと思わしきブログを見つける。

「私は赤の9番【隷従】です。至急私にベットしてくれるプレイヤーを探しています」

憧れていた小田かずさが、実は自分と同じゲーム好きで、そこから彼女とお近づきになれるかも…と妄想するつくし。勇気を出して学校で彼女に話しかけるが、ブログの話を聞いた小田かずさは妙に切羽詰った様子。彼女の変貌を見て引くに引けなくなったつくしは彼女の下部として地球の運命をかけたゲームに巻き込まれることになってしまって―


設定は面白いんだが

異能バトル物にゲーム要素が絡んだような感じ。部分的に似ている作品を挙げるとするなら電撃から出ている一連の土橋作品と、挿絵繋がりでMF文庫の『魔女ルミカの赤い糸』シリーズが挙げられるか。前者由来のゲームの駆け引きと後者のヒロインに従属してしまう退廃的な雰囲気を足して3で割ったような作品でした。上手く立ち回れば面白くなる要素(特にゲーム部分)はあったと思うのだが、両立させようとして、結果どちらの方にも中途半端になってしまっているような。
まず、ゲーム要素の部分だが、細かいことを考えなければ、結構面白い設定だと思う。異能バトルの結果を題材にする賭け。ベットすればする程能力は上がって有利になるが「プレイヤーはどのマス(ポケット)に賭けてもよい」「自分がベットしている色と逆の色が敗退すると、戦闘で直接関わっていなくても賭けていた倍のチップが払戻される」「後賭けOK(寧ろ推奨)」等々、どう考えても駆け引きやら裏切りに使われるような設定目白押し。ただ、システムが面白くても主人公の(敵もだけど…)行動があんまり素直な為にその可能性を生かしきれていないと思った。つくしの性格的に裏切りやら味方をも騙すとかはやりそうにないけどさ、このシステムで馬鹿正直に【隷従】に賭け続けるのは、もう未来をひとつ捨てているのと同じじゃないか。ブラフを使ったトラップもあったし、あれは相手としては騙されるでしょうが、その計画を使うための前提条件が厳しすぎます。将来的に敵になるかもしれない人が全面的に協力しないと成立しない罠なんて、信用して使う方が一方的にリスクを負うような物でしょうに。あと、大まかなルールについて説明はあったものの、ルールの細かい部分が端折られているのが残念だったかも。いきなり延々とルールの説明があると流れが悪くなるのはわかる。が、細かいルールを隠しておいて、いざその状況に陥ったとき始めて内容が明かされるというのはゲーム小説として見た場合はフェアじゃない。
次につくしと、小田かずさの関係について。つくしの性癖がボロボロに叩かれてますが、それはとりあえず置いておいて。最大の問題は、ある意味このお話の魅力の一つである美少女に【隷従】するまでの過程が安直過ぎるということだと思う。小田がドSでつくしがドMという性格設定だけでこの関係を成り立たせているのがマズイ。精神的に言葉攻めでもいいし、肉体的に色仕掛けでもいいのだが、そんな過程無しに成立している【隷従】の関係なんて…。虚しい繋がりではないでしょうか。もっと二人の関係をページを割いて書くか、『魔女ルミカの〜』まで露骨にやれ、とは言いませんが、もっとサービスシーンやらあってもよかったのではないかと。ついでに挿絵も各章のタイトルだけで少ないよ!


題材的には好みだったものの、振り幅がどっちつかずで全体的には微妙な作品と言わざるを得ない。続きはあるのなら黒側のお話になるということだけど、もし出るのならタイトルも『赤の9番【隷従】』じゃなくて『黒の7番【XX】』のようにして主人公とヒロインも変えた方が面白くなるのではないだろうか?勿論赤の〜との絡みはアリアリで。

4048682822赤の9番“隷従” (電撃文庫)
カズオキ
アスキーメディアワークス 2010-01-10