「ビスケット・フランケンシュタイン」

「どんな子供を、産むかは――」
「女性の勝手です。いいから、遺伝子の保存袋でしかない男性は、黙って精子を提供しなさい。あなたが抵抗しても、本能はそれを求めているでしょう?」


あらすじ

1999年。半信半疑で語られ続けた大予言が、大いなる肩透かしとなった世紀末の世の中で、その異変は人知れず始まっていた。少女達の間に広まる未知の病。肉体が腐ってゆき、その果てに未知の物質に置き換わってー最終的には元の肉体が耐えきれず死に至る。病の発現場所は人によってバラバラ、進行過程での症状もバラバラなこの病に対し、自らの娘を病に置かされた一人の医者が研究機関を設立する。
そして今、その研究機関で一つの全く新しい命が誕生した。研究者の手慰みに死体の感染部位を繋げて作られたその体は、何の因果か自分の意思を持って動き出すことになる。彼女は何を想い、そして何の為に存在するのであろうか―


日日日の1冊物には妙な味があるという法則発動

最近できたレーベル『メガミ文庫』からの日日日の完全新作。たまに発動する真面目日日日
メガミ文庫自体、メガミマガジン関連の小説の文庫から派生した得意な出自によるものか、オリジナルの新作「は」一風変わった(玄人向けの)本を出している感がある。そしてこの作品も、著者はライトノベルでは有名所な日日日だけど、文庫のカラーのせいか、かなりチャレンジャブルな内容であった。
著者の他作『ギロチンマシン〜』と一緒でテーマは「人間の在り方」。ただ、ギロチンマシン〜は、意識の在り方(ソフトウェア方面)に重きを置いていたが、今回はどちらかというと肉体とかとりまく環境もろもろ(ハードウェア方面)の方が強く扱われている感じ。
ただ、そんな重く複雑なテーマなのに、最終章で早急に纏められてしまった点が悔やまれる。結末自体はそんなに悪くは無いし、アリだろう。けど、それまでのお話で積み重ねていた物全てにそれで決着がついたのかと考えると、ちょっと強引ではないかなぁ。
全体の構成的には過去から時系列順に描かれる短編と短編の間に本編が挟まっていて少しずつ進行、最終的に本編の時間軸に追い付き、最終章が始まるという形。短編一つ一つにオチがあり、一応そのお話の中で決着はついている。この短編を構成している要素がまたチャレンジャブルで…普通に過ごしているなら「避けて通っている」ような内容を意図的に選んで話に絡めている節すら。カニバリズムやら脳の解剖やら、私らが耽溺している2次文化を完全否定やら、人によっては気分を害するレベル。でも、そんな重い内容を扱いつつも、醜悪な空気をそんなに感じさせずに、ある意味の切なさにまで昇華している話の運び具合はとてもよかった。タイトルがビスケット・フランケンシュタインで主人公の名前をそのまま持ってきているだけに、この知識はあれども経験は無しという得意な主人公を世に送り出せた時点で作者の勝ちなのかもしれない。主人公の置かれた境遇、そして会話を進行する上での微妙な機微とか空気とか、その辺りを功名に捨拾選択して、悪意と善意の薄氷の上に辛うじて成り立っているようなバランスの取り方は見事だった。重いテーマを扱いつつも、危ういバランスを保って進行するお話、そして時々ハッとさせられる内容…短編各章単体で見ると大変好み…だったんだけど!


一つ一つのお話がとても良かっただけに、最初に述べたように「あの結末」で全てに決着がつけられてしまったのが余計に悔やまれる。1冊、限られた分量だとあのくらいしか纏め方は無い気もするが…どうにも今まで描いていたことを生かしきれてないように思えるのが残念かも。そういうわけで、1冊のお話として考えると物足りない、が、興味深い箇所は多い独特の味がある作品ということで一つ。

4059035335ビスケット・フランケンシュタイン (メガミ文庫)
学習研究社 2009-05