「パララバ-Parallel lovers-」

「……ラメルさん、人は自分のためにしか泣けない生き物だって言葉、知ってますか?」
「ん?」
「たとえば愛する人が死んで涙を流しても、それはその人のために泣いているんじゃなくて、愛する人を失った自分が可愛そうで泣いているんだって」
「ふぅん。よくわからないな」
「遠野綾、たとえば私が死んだときに、誰かが私のために泣いたとしたら、それは同情というものではないのかな」
「ま、<こちら>には村瀬はいないのだし、お前はお前のやりたいようにすればよいのではないのか?百パーセント自分のためにした行動が、百パーセント誰かのためになる、そういう奇跡もたまにはあるさ。世界がそれを何と呼ぶかは別としてな」


あらすじ

遠野綾は高校2年生。彼女の今一番の幸せは部活を通して知り合った他校の男子生徒・村瀬一哉と毎夜電話で話すことだった。何度も電話で会話を交わすうちに互いを友人以上の存在として意識し始めた二人だったが、その蜜月の時間は急に終わりを告げることになる。夏休みの終わりに一哉が事故死してしまったのだ。だが、一哉の通夜に行ったその晩、死んだはずの一哉の携帯から電話がかかってきた。そして突然の出来事に戸惑う彼女に彼はこう告げる―

「今日はさ、俺も通夜に出てた」
「誰のか、わかるか。お前のだよ。綾、死んだのはお前なんだ」


なんか売り方が裏目に出てる感じもするんだが?

第15回電撃小説大賞「金賞」受賞作。新人さん。
概要っつーかジャンル表記が

  • 携帯電話が繋ぐパラレル・ラブストーリー。切なさともどかしさが堪らない(カバー折り返しとか帯)
  • 珠玉の学園ラブミステリー(最後の方の既刊一覧みたいな所)

と、あってメイン上で推されているけど、実際は下のが正しかったよな?と思わずにはいられない。
この上の紹介のされ方だと、もっとリリカルで恋愛分多目なのを期待すると思うんだ。が、実際には各々の死の真相を求めて色々と探索していくお話で(途中経過に)切なさは(あまり)無く、もどかしさは精神的よりは物理的寄り。流石にこれは…切ない恋愛メインとしては駄目だろうと。
けど、一方、恋愛をサブに持ってきて「学園ラブミステリー」として見れば結構良かったのではないか、とも思う。切なさとか詩的な部分が足りないだけでメイン二人の関係自体は悪くない…というか高校生らしく微笑ましくてよい感じだった。そしてそれ以上に全体の構成の丁寧さが光る。
ミステリーといっても、ガチガチのミステリーではないし、凄いトリックがあったわけでは無い。寧ろ、ヒントの出し方が良心的過ぎて展開が読めてしまうレベル。で、展開も概ね予想通りになるわけですが…予想していた以上に、過去の伏線を丁寧に拾ってくるのに関心したというか何というか。「あ、そこも伏線だったんだ」みたいな。こっちもそう突飛な物ではなかったのですが、「パラレルワールドの使い方」ってのも良識の範囲内で頑張ってたと思う。EDとそれに至る流れはいざ読んでしまうと「これしかない」ってな感じもするし、絡まってわかり辛くなりがちなお話を丁寧に落とし所まで持っていく構成力は最後まで読んで好感が持てた。


ある程度読んで当初の期待を裏切られたものの、読み進めていったら結構面白くなっていた。しかし、これは当初の期待が無かったら反感買うこともなく読めていたのではなかろうか。イラストで釣る、ってのとはまた違うけど、今回のこの売り方は正直どうなのだろうか…とは思った。
ちなみにこの構成力で、かつ帯に負けずに「切なさともどかしさ」を十分に感じられる作品だったとしたら…傑作だったろうなぁ。惜しいっちゃ惜しい。

4048675184パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)
静月 遠火
アスキーメディアワークス 2009-02