「十八時の音楽浴 漆黒のアネット」

「でも、わたしは――あの大空襲の焼け跡から始まったのですよ?」


たまたま画像があったので


あらすじ

火葬国風景
昭和33年、師走。
最愛の妻・露子を亡くした三流小説作家の甲野八十助は話のネタを探し街を歩いていた。その折、彼は街で見覚えのある人物と出会う。
鼠谷仙四郎。彼の親友であり恋敵だった男。だが彼は既に死んだのではなかったか?
その後、バーで鼠谷と再会した八十助は彼から驚愕の事実を聞かされる。それは―
十八時の音楽浴
学園型国家ミルキ国では、毎日十八時に音楽浴と称して特殊な音楽を国家中に流していた。
その音楽を聴くと、どんなにやる気の無い人も嬉々として国家の為に働くようになってしまうのだ。
そんな強制装置の開発者・天才美少女博士コハクはヘンテコ発明とセクハラ発言でいつも大統領・ミルキII世にちょっかいを出す困った性格。だが、二人の仲は悪くは無くミルキ国の運営にも大きな問題は無かった。
そんなある日、博士コハクに大統領夫人からの招待状が届く。そこにはコハクとミルキII世の仲を良く思わない副大統領の思惑が一枚噛んでいて―


力技ですが…

昭和初期の作家・海野十三の『火葬国風景』と『十八時の音楽浴』を現代風に「跳訳」+αで一つにまとめあげた作品。


『火葬国風景』はかなり原作準拠。
雰囲気はいいもののお話として面白いかと言われると私は微妙。特に終盤の加筆部分が相当浮いているのが気になった。お話を繋げるのには必要だろうが、そこが力技たる所以。
ただ、最後の一文は(原作とほとんど変わらない点を含め)非常に上手い。火葬国の今後を仄めかしつつ展開をバッサリ切ってる辺り。


『十八時の音楽浴』は舞台や途中経過は原作準拠なものの、登場人物や結末はかなり改変。初老の博士⇒天才美少女まな板博士とかどんだけ〜。
こちらは『火葬国風景』とはうって変わって作風も今風な感じ。そしてエロい。同性愛とか性転換とかありあり。ゆずはらとしゆきはっちゃけてんなー(美少女文庫関連での仕事が多いので)とか思いつつ原作を読んだら原作も性転換とかありありな罠。エロい場面以外にも色々と電波な場面もあるわけですが、展開自体はそこも原作準拠だったり。
流石に跳訳版の方が表現が原作よりエロかったりグロかったりするわけですが、当時そんな展開を持ち出した原作凄すぎ。
そして、ゆずはら節と原作の親和性に吹きつつ結末まで辿り着くとそこで明かされる驚愕の(でもないか)真実⇒解明篇に続く。二つのお話が1冊に収録されてるのは不自然だったとか、伏線とか色々ありますが、ここでやられました。
やっぱり黒い球体関連はお話の中で浮いてるのですが、オリジナル色が濃いので火葬国程気にはならなかったのも良かった。


『漆黒のアネット』は完全オリジナルで『火葬国風景』と『十八時の音楽浴』を繋げるお話。
前2作を内包しつつ、全く別の結末へと物語は着地する。ループ?タイムスリップ?はたまた夢オチ?捕らえ所の無い終わりであることは確か。自分は割と好きだけど、人によっては微妙かも。釈然としない、というかそんな気持ちは残るのだよなぁ。
…ここまでの内容に従った伏線が火葬国の段階でも(黒い球体以外で)いくつか散見できるので軽く見直してみると面白いかも。


変ラノ」でも結構票が集まってたりと癖の強い作品であることは確か。無駄にエロかったり、繋げ方が強引だったりするが、取り組み自体は面白いと思う。
『火葬国風景』と『十八時の音楽浴』という別のお話二つ+自分の作風+『空想東京百景』の世界観(一部)で、原作準拠しつつ別のお話を作るんだぜ?それって凄くない?

4094510133十八時の音楽浴―漆黒のアネット
ゆずはら としゆき; 海野 十三
小学館 2007-06-19