「Guns for Nosferatus1 此よりは荒野」

「あなたはね、アラン。リーズが……ううん、街の人たちや、市長や、あなたの叔父さんだってやっぱり、人間らしい人だってことを、きっと理解する日がくるわ。けど、それはあなたが思ってるほどひどいことでも、薄汚いことでもないのよ」
「そしていつか、それでも彼らを許せたら――自分も一人の人間でしかないって、受け入れられるようになったら――同情ではなく、愛することのできる日がきたら――いつか、ね」
「そしたら、今度こそ本物の男になった、って認めてあげる。おやすみ、アラン」


あらすじ

19世紀末、アメリカ西部。近隣の村と共に家を襲われ、母と妹を亡くしたアラン。彼を助けた少女は言った。襲撃者は「不死者秘儀団」だと、彼の父親もそれに関わって命を落としたと。その少女から父の遺品を受けとったアランは、燃える我が家を前に彼らへの復讐を誓う―
それから3年。アランは叔父が保安官であるキングスウェイ市で保安官補を勤めていた。大地主と市長の間で色々と忙しい毎日。だが、彼は復讐を望みつつも具体的には何もできていない自分に焦りを感じてもいた。
そんな折、地主の牛が次々と盗まれる事件が発生する。首謀者と見られるのは人狼の一味。人間を圧倒的に凌駕する彼らの力に手を拱いていた保安官達。だが、そんな人狼達を容易く屠る人物が街に現れる。『屍人殺しのステラ』彼女は3年前にアランを助けてくれたあの少女で―


地味にレベル高い

表紙に惹かれて、あと「西部劇」ってジャンルが好きなので購入。作者自体は未知で初。解説/田中ロミオってのもちょっと影響あったかもしらん。「あとがき」じゃなくて「解説」ってのは珍しいよね?
ふつーに面白かった。
ふつーにってのがまた微妙な表現か。普通にお話自体が面白いってのが近くて、普通程度に面白いは誤りで。
読んでいる間は続きが気になるので、全体的にあっさり目に流してしまいがちだった。が、それに反して読後感が良好。ってか読みきってから、要所要所を思い出すと実に味わい深い。アランの成長っぷりとかは特に。原初の動機は復讐で、人並みに焦って恐れてて。そんな彼が自らの意思で荒野に出るまでの心の成長を過不足なく描けているのは秀逸だったと思うんだ。
だが、読んでる途中で「こ、これは!」と思える場面が少なかったのも事実。思うに、このお話には一点突破で突き抜けた部分ってのが存在していない(か、ウェイト低い)。それが原因で読んでいる間は、どこかで引っかかる(≒衝撃を受ける)ことが少なかったのかも。一点突破ってのは…色々ですね。エログロ鬱展開超展開萌え燃えネタ会話メタ会話エスプリが効いた会話衒学的な会話テンポのよい掛け合いetcetc 一つ一つを見るとこのお話でも無きにしも非ずといった所かもしれないが、傾倒はしてないはず。冒頭の妹はちょっと重かったかも…けど、冒頭だけだったようなものだし。まぁ、多かれ少なかれラノベには尖ってる所はあるものだし、読者もそこを求めているのだとも思う。けど、如何せん最近はその傾向が強まってると感じている。そんな状況下でこんなある意味ピュアな作品読んじゃったからさ…ぱっと見の刺激は、ね。密かに主人公の周りがハーレム状態(妖艶なお姉様+ツンでれない+おしゃまなょぅι゛ょ と揃ってるのにそういう状態にはは感じられないのが面白いんだがw)だったり、今風な所もあるっちゃあるんですが、どっちかと言うと昔の朝日ソノラマとかのガチなラノベに雰囲気近いような気がするな。
ここが凄い!ってのは言いにくいのだけど、奇をてらうことがない分素直で非常に読み易く流れも把握しやすい作品だと思う。これで心情もしっかり描写…となると展開がまったり風味になりそうな所だが、いいタイミングで事態が進行するので実は飽きさせない。地味だがレベル高い良作だと思う。「お話」自体を楽しみたい人なら、暗そうな世界感に反して結構おすすめできるかもー?
4094511032此よりは荒野 (ガガガ文庫)
水無神 知宏
小学館 2008-11-18