「幽霊列車とこんぺい糖 メモリー・オブ・リガヤ」

「こんなところで、お昼寝?」
「昼寝っていうか、待ってたの」
「ふーん、何を?」
「電車」
「来るはずもないのに?」
「幽霊鉄道なら、来るかもしれない」
「でもね、そんなところで待ってたら轢かれてしまうよ?」
「それが目的だから」
「おかしな子だね」
「よくいわれる」
「電車に轢断された死体、見たことある?」
「はぁ?あるわけないじゃん」
「そりゃあ、酷いもんだよ。身体なんてグチャグチャ。内臓も飛び出る。手足なんてもちろんバラバラ。そうなったら、人間だって生ゴミも同然さ。職員はバケツを手に、分散した身体を集めなきゃならない」
「何ていうか……見てきたような口調だね」


「ははっ、そんなわけないさ。一般論だよ」


あらすじ

味覚障害にして生理不順の少女・有賀海幸(みさち)。
幼い母の世話と日々の孤独な生活に疲れ果てた海幸は、ある日の母の一言をきっかけに自殺を決意する。…自らの命に高額の保険金をかけて。そんな彼女が選んだ自殺の方法は、地元のローカル線に飛び込み自殺をすることだった。
保険の免責期間が過ぎ去り、決行の日。ローカル線の駅に訪れた時、彼女の計画は頓挫することになる。一本しかないローカル線が廃線になってしまっていたのだ。失意に暮れ、列車の通らない線路に横たわる海幸。そんな彼女の前に、自らをリガヤと名乗る女子高生が姿をあらわす。彼女は造形作家で、線路の果てにある廃棄車両を『幽霊列車』として甦らせに来たというのだ。自分を轢殺してくれるなら幽霊列車でもなんでもいい、そう思って海幸はリガヤの創作活動に協力することにしたのだが―


ごちそうさまでした

思春期特有の妄想をやや後ろ向き・ある程度狂気方面にバイアスをかけて綴られるガール・ミーツ・ガール。
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に似てるって声が多いような気がするが、自分は巻末の広告で初めて頭に思い浮かんだんだぜ…ぱっと見ジャンルは確かに似てるかも。暗黒青春小説ファンタジー風味、みたいな。ちょっとすんなりと入ってこない(途中経過の心理描写が不足している場所がいくつかあるような?)点があったので、完成度は『砂糖菓子』の方が上かなぁとも思うが、こちらにしか無い魅力ってのも多々あったわけで。

「線路で横たわる君を見た瞬間、ボクは思った。君を、ボクだけのお人形にしたいって」
「なっ、何よそれ……?」

個人的に特に気に入ったのが百合描写の充実っぷり。行動的なリガヤから内向的な海幸へアプローチをかける局面が多いわけですが、その都度うろたえたり反抗してみたり赤くなったりと海幸が微笑ましいことこの上無し。一緒に自転車に乗ったりお弁当を作って届けてあげてあーんしたりとか、挙句の果てに一緒にお風呂とかキスされたりとかとか…もうお腹一杯ですよ、ごちそうさまでした
ただ、単純に百合描写があれば満足かというとそういうものでもないわけで。既出の内容は明るくキャッキャウフフしてる言わば白百合、対になっている黒百合…歪んだ愛情の形がこの作品の肝。普段は明るいだけに黒さがより際立つというかなんというか。単純に行為だけ見ても太股に顔をすりつけて恍惚とするとか、全裸で…rとか非常に病んでて大変に好み。だが、それ以上に重要なのが終盤に明らかになるこの問題が、今までの展開の心理描写に与える奥行きだと思った。物語の途中経過で目的や信念が新たに発生するなら何も問題は無い。面白いのは、開始から終盤まで目的にブレがないこと、それが表面上の態度とかけ離れていたこと。そしてやっぱり病んでる。目的がわかってると前半の台詞とか「実はそういう意味か!」と思える場所もそれなりに存在。死の接吻は文字通りのリップサービスとかとか。片方は色々な物に雁字搦めにされてるように見えつつも実際はそれなりに自由もあって、片方は一見自由に見えても実際は過去に囚われているって対比として面白いね?

482916400X幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ (富士見ミステリー文庫 67-3)
木ノ歌 詠
富士見書房 2007-10